今、生きるガルブレイス『大暴落1929』その3

(ガルブレイス『大暴落1929』について・承前)
大暴落が及ぼした影響について、ガルブレイスが挙げている点を以下に引用する。第二次世界大戦に及ぼした影響という点では三番目の外国への融資が大きい。地域的にはドイツと中南米が多かった。

(引用開始)
ウォール街は長年にわたり株など端役に過ぎないと言い続けてきたが、実際には主役級だったと考えられる。証券価格の暴落は、まず富裕層を直撃した。そして一九二九年の世界ではこの層が重要な役割を果たしていたのであり、個人所得総額ではかなりの割合を、個人貯蓄や投資ではきわめて大きな割合を占めていた。この層の支出や投資に打撃を与えるような要因は、広く経済全体の支出や所得にも影響をおよぼさずにはおかない。まさにその打撃が株式市場の大暴落だった。その結果、株の儲けを気前よく使うことで成り立っていた経済のつっかえ棒がいきなり外されてしまったのである。
  大暴落は、企業構造の欠陥も容赦なくあぶり出した。持株会社方式の経営形態で末端に位置する事業会社は、大暴落によって事業縮小を余儀なくされる。こうして持株会社方式が崩壊し、また投資信託も破綻すると、設備投資をしようにも金を借りることもできなくなったし、貸そうという人もいなくなった。金融や証券の世界の出来事に過ぎないと思われていた現象がこうしてあっという間に実体経済に飛び火し、受注高の減少や失業率の上昇という形で表れるようになる。
  大暴落の影響で、外国への融資も打ち止めになった。これによって国際収支を均衡させていたのだから、相手国にしてみれば、あとは輸入を減らすしかない。その結果、たちどころにアメリカの小麦・綿花・タバコの輸出が大打撃を受けることになった。おそらく対外融資は国際収支の調整を先送りしていただけで、いずれこういう日が来ることは避けられなかっただろう。それにしても大暴落がまったく突然に、しかもまったく好ましくない時期に、その調整を迫ったことはまちがいない。農家がその元凶は株式市場だと恨むのも、あながち見当外れとは言えまい。
  最後に、大暴落が発生したときの時代の空気についても触れておかねばならない。当時の無気力な空気は、何か手を打つことをことごとく妨げた。ことによるとこれがいちばん問題だったかもしれない。一九三〇年から三二年にかけては、現実に食うに困る人がいた。自分がそうなるのを恐れる人もいた。金持ちから貧乏人に転落し名誉も地位も失って茫然とする人もいたし、次は自分だと考えて怯える人もいた。そして誰もが絶望感にさいなまれていた。どうせ何をしても無駄なのだと皆が感じており、政策もそうした無力感に支配されていたために、結局ほんとうに何もすることができなかった。
(引用終了)P298-299 第9章 原因と結果

外国への融資という点では、面白いエピソードが披露されている。ご隠居は初めて知ったのであった。今も昔も中南米はアメリカ帝国のテリトリーなのだろうか。メキシコ国境を越える難民流入問題も帝国国内の問題として解決すべきだろう。

(引用開始)
たとえば一九二七年末には、ペルー大統領の息子ホアン・レギーアに四五万ドルが支払われている。払ったのはJ&Wセリグマン・アンド・カンパニーとナショナル・シティ・カンパニーで、後者はナショナル・シティ・バンクの証券子会社である。四五万ドルは、ペルー国債五〇〇〇万ドルの起債に関して便宜を計らってもらった謝礼ということだった。ただし後日の証言によれば、ご令息の果たした役割はずいぶんとささやかで、ただ邪魔をしないということであったらしい。チェース・ナショナル・バンクは、キューバのマチャド大統領に気前よく個人的な信用枠を設定。残虐で知られるこの独裁者に対し、一時は二〇万ドルもの貸し付けが保証された。さらにマチャド大統領の女婿がチェースに登用され、チェースはキューバ国債を大量に扱うことになる。中南米諸国とのこうした取引では、債権者の利益に反するような情報はあっさり見逃される傾向があった。たとえばナショナル・シティ・カンパニーの中南米担当副社長ビクター・ショパールは、ペルーの信用程度を次のように評価している。
  「債務返済状況、悪し。社会的モラル、低し。政治リスク、高し。国家財政、不良。過去三年間の貿易収支、チリ並み。天然資源、チリより多様。今後一〇年の経済展望、急成長の見込み」
(中略)
国債がうまくいかないとなると、対外収支の大幅見直しをせざるを得ない。債務国にしてみれば、いつまでもゴールドで払い続けることは不可能である。となれば対米輸出を増やすか、対米輸入を減らすか、でなければ既発債のデフォルトを起こすかしかない。
(引用終了) P289-293 第9章 原因と結果

総じて中々に面白く読めた。この3回分を読んでもらえれば、ある程度この面白さが尽くされているとの自信はある。もちろん、この功績はガルブレイスその人にある。

本書の結びから引用する。これはほぼ永続的な警句となろう。

(引用開始)
だがかつてもそうだったように現在も、金融上の判断と政治上の配慮は逆方向に働く。長期的にみれば経済を救う措置であっても、現在の安寧と秩序を乱すものであれば、けっして高く評価されはしない。そこで、たとえ将来に禍根を残すとしてもいまは何もしないでおこう、ということになる。こうした姿勢は、共産主義を蝕んだのと同じように資本主義を脅かす。このような考え方に陥るからこそ、事態が悪化していると知りながら、人はあの言葉を口にするのだ――状況は基本的に健全である、と。
(引用終了)P308-309 第9章 原因と結果

今も状況は基本的に健全なのだ。

PS. 10月7日毎日新聞朝刊は「世界の債務2京円なり」との見出しで、IMFの専務理事が「世界の公的部門と民間部門が抱える債務が計188兆㌦(約2京円)に達し、過去最大を更新したと明らかにした。世界の国内総生産(GDP)の約2・3倍に当たり『債務の持続性や透明性の確保がより必要だ』と指摘し、リスク管理の強化を促した」と伝えている。

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